その手が離せなくて
「ははっ」
思わず零れた声が、暗闇に消える。
吐いた真っ白な息と混ざって、誰にも届く事なんてない。
あぁ。
私はもう、地獄に落ちるのかもしれない。
もう戻る事なんて、できないんだと悟った。
どれだけ誤魔化しても、言い訳しても、逃げても、何も変わらない。
だって――。
「好きなのっ。一ノ瀬さん」
溢れるのは、その気持ちだけ。
胸に宿った罪悪感なんて打ち消してしまう程の、想い――。
「どうして私じゃないのっ」
きっと私は彼が結婚していると分かっていたとしても、恋に堕ちていたと思う。
まるで磁石の様に惹かれたんだもの。
止められるはずがない。
こんなにも好きになってしまった。
私のすべて、あの人に塗り替えられてしまう程に。
何をしていても、彼の事しか考えられなくなっていた。
私の世界が、すべて彼が中心になった。
こんなにも愛おしいのに、こんなにも恋焦がれているのに。
忘れるなんて、できるはずない。