その手が離せなくて
「なんだよ」


突然、膝を抱えて座り込んでいた体を、その言葉と共に何かが優しく包み込んだ。

ハァ。と熱い吐息が耳元に届いて、大きく目を見開く。


「――っ」


勢いよく顔を上げると、目の前にいた人は息を切らしながらも、安堵の表情で私を見つめた。

寒いのに額に汗をかき、服には泥がついている。

私の頬に添えられた手は氷のように冷たかった。

だけど、そのビー玉のような瞳は温かく私を見つめている。


「やっと、見つけた」


言葉を無くした私を見て、そう言った、あなた。

一瞬、幻かと思った。

都合のいい夢かと。

それでも、瞬きも忘れて固まる私の頬をそっと撫でてくれた感触でこれが現実だと分かる。

ポロリと、涙が一筋頬を伝った。


「いち・・・・・・のせさん?」

「あぁ」


この状況が信じられなくて、確かめるようにもう一度彼の名前を呼んだ私の髪を一度優しく撫でた一ノ瀬さん。

そして、ふっと小さく息を吐いて微笑んだ。

その姿を見た瞬間、彼の腕の中に勢いよく飛び込んだ。


「一ノ瀬さんっ」


温かい腕の中で、まるで子供の様に涙を流して縋りつく。

安堵なのか、何なのか分からなかったけど、ただただ声をあげて泣いた。

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