その手が離せなくて

「もしもしっ」


ようやく口の中のモノが無くなって、声を出す。


『大丈夫?』

「全然平気っ」

『桜、見てるんだ?』

「うん。外でランチしてるんだけど、ちょうど目の前に桜の木があるの」


視線を前に向ければ、青空の中に映えるピンク。

少し強い風が吹いた時、花びらが舞って空に溶けていった。

その様子があまりにも綺麗で、思わず目を細めた。


『花見でも行く?』


そんな時、不意に聞こえた言葉に一瞬思考が停止する。

それでも、言葉の意味を理解して思わず立ち上がった。


「い、いく!!」

『仕事終わりにでも』

「うんっ!!」


思ってもみなかったお誘いに、一気にテンションが上がる。

まるで子供の様にその場で小さく飛び跳ねた私を、通り過ぎる人がチラリと見て行った。

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