その手が離せなくて

「カレーライスを入れるわけにはいかないからなぁ」


あの雨の日に彼が言っていた事を思いだす。

バクバクと心臓を鳴らしながら、彼の声に耳を傾けていた、あの日を。


〝好きな食べ物はカレーライス、嫌いな食べ物はカキフライとトマト″


まだ、お互いにどこか余所余所しかった頃。

酷く昔に感じるけど、思い出すだけでなんだか幸せな気持ちになった。

あの日から、何もかも始まったんだから――。


「よしっ!!」


緩む頬を押さえる事なく、買ってきた食材を冷蔵庫から取り出す。

いつもなら高くて買わない様な食材も、もはや値段すら確認しなかった。


「喜んでくれるかな」


まるで高校生みたいに、はしゃいでる自分がいる。

チラリと時計を見て、あと何時間後には・・・・・・と、しきりに想像する。



恋って、こんなに楽しかったんだ。



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