その手が離せなくて


〝嫁が――″


その文字を見ただけで、言いようのない感情に苛まれた。

まるで天国から地獄に突き落とされた様。

ペタリとベンチに座り込んで、ぼんやりと携帯を見つめる。

さっきまで上がっていた頬は落ちて、体から力が無くなる。

何も、考えられなくなる。


『分かったよ』

『悪い。この埋め合わせは必ずする』

『気にしないで。奥さんと仲良く』


心にもない文章を打って携帯を閉じる。

深く息を空に向かって吐いた瞬間、口元から嘲笑うかのように息を吐き出した。


「ははっ。バカみたい」


自嘲気な笑みが世界に満ちて、落ちる。

ケラケラと笑っていると、鼻の奥がツンとして涙が溢れてきた。


「ふっ」


仕方のない事だ。

彼の行動は間違っていない。

こうするしかできないんだから。


だって――。

私は二番目なんだから。

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