その手が離せなくて

涙が止めどなく流れて顎先から落ちていく。

悲しみが、辛さが、虚しさが、心を覆って壊れてしまいそう。


こういう事だ。

『不倫』とは、こういう事。


約束が果たされなくても仕方ない。

どれだけ会いたくても、我慢しなければいけない。

文句なんて言えるはずもない。

『奥さん』が一番で、私はどこまでいっても『二番目』なんだから。


「辛いなぁ」


楽しみにしていた。

すごく、すごく、楽しみにしていた。

だけど、どうしようもない事――。

聞き分けのいい子を演じて、嫌われない様にするのが精一杯。


頭が空っぽになって、まるで廃人の様にただただベンチに座り込んだ。

動く事も、何かを考える事も体が拒否している。

まるで世界が止まったかの様に、静寂の中にいた。

涙だけが、静かに落ちていく。


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