その手が離せなくて
パァァンッ。
真っ暗な誰もいない路地に響く、乾いた音。
一瞬、何が起こったか分からなかった。
それでも、徐々に赤くなる頬に自分の冷たい手を添えて、叩かれたのだと察した。
少しよろめいたけど、寸での所で踏ん張る。
ゆっくりと視線を上げると、恐ろしいくらい冷たい瞳で私を見下ろす女性がいた。
その姿に、息が荒くなる。
心臓が痛い程締め付けられて、気が付いたら涙が出ていた。
「泣きたいのは、こっちよ」
そんな私を見て、吐き捨てる様にそう言ってグイッと私の胸倉を掴んだ女性。
うっと息を詰めるけど、女性は気にもしないで言葉を続けた。
この世で一番、聞きたくなかった言葉を。
私の世界を、壊す言葉を。
「私の旦那に、よくも手出してくれたわね」
――世界は。
やはり悪者を生かしてはくれないみたい。