その手が離せなくて
どこか意地悪く笑った彼の顔が淡い街灯に照らされる。
酔っているのか、どこか頬がほんのりと赤い。
その姿が、どうにもこうにも愛おしくて、思わず抱き着いてしまいそうになる。
だって、会いたくて会いたくて、堪らなかったから。
道行く人の姿なんて一切見えない。
ただ、真っ直ぐに彼を見つめた。
すると。
「家まで送る」
「え?」
「聞こえなかった? 送る」
半ば強引にそう言って、一ノ瀬さんは私の家の方向へ足を進めた。
その後ろ姿を見て、慌てて私も駆け出した。
淡い街灯と月明かりが、地面に長い影を作る。
2人並んで歩くその影すら愛おしいと思って、笑みが零れた。
歩幅の違う足が、交互に出るのを見つめる。
次第にゆっくりになる彼の足音を聞いて、私のペースに合わせてくれているのだと分かった。
優しい人だと思う。
たまに強引だな、と思う時はあるけど。
それでも、相手の事をいろいろ考えて細かい所も気遣ってくれる。
素敵な人だと思う。