その手が離せなくて
「知り合いが通り魔とかで殺害。なんて見たくないだろ?」
「ちょっと、私殺される前提ですか?」
「それくらい夜道は危ないって事。覚えておくように」
「はーい」
ケラケラと笑った私の姿を見て、不敵に笑った彼。
どこか大人な雰囲気を醸し出す、その姿。
今まで出会ってきた男性とは、比較にならない何かがあった。
「部屋までは行けるな?」
「子供じゃないんですよ? 私」
「しっかりしてる様で危なっかしいからな、望月は」
仕方ないな、って顔で微笑んだ彼に微笑み返す。
それでも、ふと腕時計に目を落とした彼を見て、お別れだと思う。
そう察した瞬間、酷く寂しくなった。
後は、酔った勢いだと思う。
気が付いたら、目の前にいる彼の指に触れていた。
「――どした?」
思わず彼の指先を掴んだ私を見て、一ノ瀬さんは一瞬驚いた顔をした。
それでも、優しくその瞳を細めて首を傾げた。