強引ドクターの蜜恋処方箋
13章
小春日和の暖かい日差しが木漏れ日を揺らしている。

急遽、一時帰国している母と、雄馬さんと3人で公園を散歩していた。

母の病状はますますよくなっていて、ほぼ治療は完了しているとのことだった。

「お母さん、少し丸くなったんじゃない?」

「もう、いやねぇ。だってあちらの食べ物はおいしい上に量が多いんだもの」

「血は争えないな」

雄馬さんはそんな母にいたずらっぽく笑いながら言った。

母は「もう、雄馬くんまで!」と楽しそうに笑い返す。

私はそっと母の腕に自分の腕を絡めた。

「病気は治ったんだから、日本に帰って来たら?」

「そうねぇ。せっかくオーストラリアにも慣れてきたし、住み心地もいいから、まだしばらくは帰らないかな」

「そうなの?」

少し残念なような気がした。

「それに、水谷先生とラブラブするのも日本よりあっちの方が人目気にならないしね」

なんて続けた。

「なぁんだ。年甲斐もないこと言っちゃって!聞いててこっちが恥ずかしくなるよ」

私は肩で母の肩を押した。

「いくつになったって恋は恋よ」

母は、前を向いたまま穏やかに言った。

空を見上げると、日差しがキラキラしている。

眩しくて目をつむった。

しばらく歩くと、雄馬さんが目の前にあったベンチに座るよう母を促した。

「ありがとう」

母はゆっくりとベンチに腰をかけた。

私と雄馬さんは、母を真ん中にして座る。

雄馬さんは緊張した面持ちで母に向き直った。

「チナツさんと、結婚させて下さい。必ず幸せにします」

母は雄馬さんの手に自分の手をそっと添えて頭を下げると、私の方に顔を向けた。

目を潤ませながら、

「チナツ、おめでとう」

と言うと、私をしっかりと抱きしめた。

「嬉しいわ。初めて会った時から、きっと2人はそうなると思ってた」

「ありがとう」

私も母の背中をぎゅっと抱きしめる。

「チナツが選んだ人だからきっと大丈夫。信じて着いていきなさい」

「うん」

母はゆっくり私から離れると、雄馬さんと私の手を取った。

「私の大切なチナツをどうかよろしくお願いします」

雄馬さんは「はい」と母の目をしっかりと見つめて答えた。

そして、私の方を見て口元を緩めて頷いた。

私も雄馬さんの目を見つめながら頷く。

私達の背中に春の日差しが暖かく降り注いでいた。


この後、母は水谷先生と日本の治療でお世話になった先生と待ち合わせをしているとのことだった。

別れ際、

「まだしばらく日本にいるから、今度こそ4人でお食事行きましょうね」

と言い、手を振りながら愛しい水谷先生の元へ足取りも軽く向かっていった。

公園の小道を行く母の背中はとても幸せそうだった。






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