昨日の夢の続きを話そう
「さてー、今日はここを測量するよ!」


住居跡の近くまで来て、肩にかけてた測量機を足元に下ろした前田さんが言った。

竪穴式住居のカマド跡からはたくさんの土器の欠片が出土している。
お父さんが仕事から帰ってきて、お母さんがカマドで火を炊き鍋とか作ってくれて、外で遊んでた子どもが帰ってきて……。

千年以上前に思いを馳せると、そんな幸せな一家の光景が、今にも目に浮かんでくる。


「香澄ちゃん、今日のお昼はお弁当?」


測量機を設置しながら、前田さんが言った。
私がカマドばかり凝視していたから、お腹が空いたと思われたのかもしれない。


「いえ、今日は寝坊しちゃって作れなくて。コンビニでおにぎりでも買おっかなって」
「そっかー。だったらさぁ、一緒に花時計カフェに行かない?」
「いいですね、行きましょう!」


私が答えると、前田さんはにっこりと頷いた。


「じゃあ決まりね! もう少しでこの現場も終わりだから、今のうちにたくさん行っときたいんだよね」


前田さんはちょっと寂しそうに言った。

彼女は発掘調査をする事務所の職員さんで、旦那さんとお子さんと共に住んでる家は現場からけっこう離れた町にある。
だから帰宅は超特急で、お子さんを保育園に迎えに行っている。

私は地元がこの辺なので花時計カフェはよく行くんだけど、前田さんが暮らす町には店舗がない。
初めて一緒に行ったときはとても喜んで、手頃な値段と料理の美味しさに感動し、現場中はすっかり行きつけになっていた。
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