昨日の夢の続きを話そう
蛇口を捻って水道を止め、タオルで手を拭いた私は溜め息を吐いた。


「もうすぐ、会えなくなるし」


囁くような、か細い声になった。
亜美が拭いてくれたお皿を、食器棚に仕舞う。


「え? 会えなくなるってどういうこと? 砂岡くんに?」
「うん。なんか仕事で、いろいろあるみたい」
「そうなんだ……。それは残念だね」
「残念……」


頷くと、胸がちくりと痛む。
私の気持ちはきっと、発したその一言に集約されていた。


「__すみません」


ちょうど食器を仕舞い終わったとき、砂岡くんが庭の窓を開けてひょっこりと顔を覗かせた。


「海斗くん、キャンディー食べれますか? バタースカッチなんだけど」
「キャンディー大好きです、アレルギーとかもないし」
「そっか。じゃあ一緒に食べてもいいかな。香澄さんに食べさそーと思って、煮たものを持ってきてたんだ」


言いながら、スニーカーを脱いで居間に入った砂岡くんは、シフォンケーキを入れてきた紙袋の中から更に小さな生成り色の紙袋を取り出す。
豪快に逆さまにすると、色とりどりのセロファンに包まれたキャンディーがごそごそっと落ちた。

赤、黄色、緑、青。
甘い匂いに誘われたのか、靴を脱ぎ捨てて家の中に入ってきた海斗くんが、その綺麗な虹みたいなきらきらの包みを見て、テーブルに両手を付いてまたぴょんぴょん飛び跳ねた。
その動きがもう、ぎゅーってしたくなる可愛さだった。


「え、砂岡くんの手作りキャンディー? 嘘でしょ、これ。売り物でしょ?」
「すごいなぁ。なんでも作れるんだね」


亜美と私が口々にそう言うと、砂岡くんは海斗くんの分のセロファンを剥がし、手渡しながら言った。


「ううん、ただ作るのが好きなだけだよ」


そんな謙遜は、そぐわない。
誰が見ても素敵な外見。器用で、意外に力持ちで、とっても優しい砂岡くんには。
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