昨日の夢の続きを話そう
お会計をしてブルームーンを出ると、ぽってりとした溶けそうな夕日がちょうど水平線の上に浮かんでいた。
とても安易にデッサンできそうな、シンプルな構図の空だった。
夕どきの涼しさを帯びた秋の海風を頬に浴びながら、私は自転車を押してとぼとぼ歩く。
海がメインと言っても過言ではない街。
海岸線の国道には海産物を扱うスーパーや、温泉付きの観光ホテルが立ち並び、そのひとつに萩間荘(はぎまそう)という小さなホテルがある。
目を細めて眺めれば、いくつかの部屋に明かりが灯り始めていた。
展望露天風呂が人気で、きっと今頃ご入浴されているお客様は、赤と紫のコントラストを存分に楽しんでおられるだろう。
私はその、萩間荘のフロントで働いている。
保育園から職場まで、ずっと一緒の腐れ縁である和史は、萩間荘の一人息子。
彼は今週末、麻衣子と挙式する。
「……はあ、今日はまた一段とキツいな」
住宅地は高台にある。
ブルームーンの裏から坂道は始まる。ペダルが重たくて、私は自転車を降りた。
ところどころ削れて穴が空いた、石畳のでこぼこ道で、私は足を止めた。
そして膝に手をつき、激しくなる動悸をなだめるように深呼吸をする。
「作れるかなぁ、私……」
安請け合いしない方がよかったんじゃないか__なんて。
後悔してももう遅い、よね。
私は泣き落としに弱い。
昔からそうだ。
あれは高校の卒業旅行、和史とふたりきりになりたいと懇願されて、私だけドタキャンしたっけ。
あのあとすぐに、ふたりは付き合いだした。
『澪、私……和史に告白してもいい?』
いいとか悪いとか、私が決めることじゃない。
だって、私は__。