昨日の夢の続きを話そう
私は小三の秋、頭上に気を取られて無意識のうちに山の深い方まで入ってゆき、斜面から転げ落ちて石に頭を打ちつけた。

落ちる直前にもさっきみたいな黒い影が視界を遮って、驚いた拍子に履き慣れない下駄でバランスを崩したんだ。


「……っ」


心臓を掴まれたように気持ち悪くなったとき、ぱちんと映像が切り替わった。

足元は下駄ではなく、着ているのも青い浴衣じゃない。
私は九歳じゃない。二十五の大人だ。

こめかみを手で抑えながら空を見上げても、夕空に羽ばたく青い鳥なんて見えない。

その代わりに、小汚い木造の建物が見えた。
たしか以前、キャンプ場が閉鎖される前は管理事務所だったような……。

両手でハンドルを持ち直し、私は窓の光をぼうっと見つめた。


「あ、れ?」


どうして電気が点いているのだろう?
キャンプ場はとっくの昔に閉鎖したのに。

オレンジ色の白熱灯が温かくほんわかしたムードを醸していて、なんだか非現実的で幻想的な光景。

もしかしたら、普通の家じゃないところで暮らしてるちょっと変わった流浪人的な人が、ランタンでも灯して寝床にしている、とか?


「い、行こ……」


よく分からないけど、関わらない方がいいよね。

そう思って、自転車を押して歩き出そうとしたとき。


「あっ……!」


私は目を見張った。
さっき視界に捉えた黒っぽいものが、その小屋の陰に見えたのだ。

虫じゃなかった。


「猫、だ」


やっぱり……。
凝視すると、その黒猫もこちらをじっと見ている。
< 69 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop