昨日の夢の続きを話そう
小屋の前に自転車を止め、私は恐る恐る黒猫に近づいた。


「……私たち、会ったことある? もしかして君、十六年前からここにいるの?」


呟いて、目線を合わせとようとしゃがんだその瞬間、黒猫は俊敏に駆け出して林の奥に消えてしまった。


「ここで、飼われてるのかな……?」


私は明かりが漏れる窓の方に忍び足で近づいた。
何年も風雨を浴び続けた汚れで曇った窓の向こうをこっそり覗いてみる。

すると。


「わ、意外……」


なかは廃屋のイメージとは、まるで違った。

部屋の中央に卓球台くらいのテーブルがあって、その上には木の切れ端やボンド、工具などが置かれている。
その脇には椅子とテーブル、簡易的な応接セットのような。

まるで誰かがなにかを作る作業をしていて、時間が止まっているみたい。
窓が汚く曇っているので、私は目を凝らして観察した。

テーブルの上にはすみれの花がとても綺麗なガラスの瓶に活けられていて、後ろの棚には木製のお皿が並び、木の実がこんもり盛られている。

ガラス細工や温もりのある木工家具、可愛らしい小花、赤く熟した実なんかがとにかく部屋中に、おそらく住人の秩序通りに配置されている。

窓の曇りのお陰でより幻想的だし、見ていてちっとも飽きない。


「か、可愛い……」


メルヘンちっくな雑貨屋さんか、絵本の中の世界みたい。

もしかしたらここは異世界で、暮らしているのは野ウサギの兄弟か、クマの親子か。
いや、木や花の妖精かもしれないなぁ。


「……そんな訳ないか」


間延びした声で囁き、自虐的にふっと笑ったとき。


「っ!」


一瞬、呼吸が止まった。
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