昨日の夢の続きを話そう
「今話してたお客様、連絡取れたって! こっちに向かってるみたい」


ほっとした顔で母が言う。


「そっか、それは良かったね」
「本当に、事故にでも巻き込まれてるんじゃないかって心配したよ」


と言いながら、仁さんがたたきでサンダルにつま先を引っ掛けた。


「澪、自転車はどこだい?」
「あ、門のとこに停めてある」
「了解」


大らかな笑顔で頷いて、仁さんは玄関を出て行った。

仁さんは、母の再婚相手。
ホテルの厨房で働いていた経験があって、今はこの民宿のキッチンを任されている。


「お願いします」


もう出て行った仁さんの背中に呟く。


「ん? なにかいい匂いがするわね」


母がくんくんと鼻を効かせ、空気を嗅いだ。


「香水?」
「あ、もしかして……これかな?」


私は肩に掛けていたトートバッグのなかから、さっき貰ったワックスバーを取り出した。
封筒に入れずそのままむき出しで仕舞ってたから、アロマオイルの匂いがバッグのなかに漂っている。


「あら、素敵ねえ! もしかして澪の手作り?」
「ううん、頂き物」


麻紐を持って、顔の高さに掲げたワックスバーにじっくりと見入った母は「誰から?」詮索する風でもなく、軽い調子で言った。


「え、っと……」


だ、誰だろ?

一時停止のボタンを押したみたいに、私は体の動きを止めた。
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