昨日の夢の続きを話そう
「弟さんもプライドがあっただろうし、麻衣子さんのためにいいものを作りたいって思ってたでしょうに、あんなに責められたら嫌になるよね。特に自分の人生を左右する大事なときに、姉に頭ごなしに叱責されちゃあねぇ」
「はあ……」
「けど、そんな風に式の前に焦っていっぱいいっぱいになっちゃう新婦さんはよくいらっしゃるからね。まあ、多少のわがままはしょうがないかぁ。あなたたち友達なんでしょ? 断れないよねぇ」


やれやれ、といった風に、向井さんは溜め息を吐いて首を左右に振った。


「私もさ、どんなに傲慢な態度をされても〝未来の社長夫人〟の要求は無下にはできないし」
「……」
「あっ、これオフレコね!」


向井さんは鼻に皺を寄せ、愛嬌のある笑顔で言った。


「私もいろいろと伝をあたってみるわ。手作り風のウエルカムボードなんて探せばいくらでもあるからさ」
「そうなんですか」
「うん! だからまあ、槻川さんはあまり根詰めて無理しないで。もし間に合わなかったら、既製品を使うことを提案しましょう」
「ありがとうございます」


こんな秘密協定、結んじゃっていいのかなぁと思いつつも、私はほんの少し心が軽くなったような気がした。

向井さんがあまりにも明け透けだから、その明るさに触れてたらなんだか思い詰めてた気持ちが少しだけ楽になったというか。

ロッカー室で着替え終えた私は従業員用の通用口から外に出て、自転車置き場で向井さんと別れた。

昨日と同じように、潮風を横から浴びて海沿いを自転車で走る。


『私もさ、どんなに傲慢な態度をされても〝未来の社長夫人〟の要求は無下にはできないし』


和史のお父さんである萩間荘の社長もこの結婚には喜んでいて、ガーデンウエディングにしたいと言った麻衣子の要望を叶えるために庭の一部に芝を敷いた、っていうけっこう大がかりな作業のことは、もちろん勤務する一員として知ってはいたけど。
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