一途な小説家の初恋独占契約
「……ジョーは、本当にかっこいいよ。見た目も、中身も」

ワインのせいだけでなく頬を赤らめて、そう告げた。

みんなはまだ、ジョーの外見か作品しか知らないかもしれないけれど、私はもっとたくさんのことを知っている。
私の知っているジョー丸ごと、素敵だと思ってる。

ついさっきまで堂々と食事を楽しみ、軽快な会話で私を楽しませてくれていたジョーが、額に手をやって、何事か呻いている。

呻きたいのは、私のほうだ。
褒めてあげたのに、辱められた気分だ。

やがて、デセールを運びにスタッフがやって来ると、ジョーは何事もなかったかのように振る舞った。
この切り替えには、未だに戸惑う。

「……汐璃が褒めてくれるなんて」
「大げさね」

散々言わせておいて、今更だ。

目元の赤らんだジョーを無視して、私はデセールに手をかける。
おいしそう……!

「……汐璃は、きれいになったよ。昔もかわいかったけど、もっともっとかわいく、きれいになった」
「それこそ大げさ」

さっきのお返しのつもりなのかな。

ジョーをまともに見返すなんてできず、デザートスプーンを弄ぶ。

「大げさなんかじゃない。汐璃は、世界で一番かわいい女の子」
「……」

ジョーの顔なんて見たくなかったけれど、無理だった。

諦めて真っ赤な顔を上げると、ジョーはデセールのチョコレートよりも甘そうな瞳を蕩けさせていた。

「手紙の文字だけでも、文章だけでも大好きだったけど……一度会っただけでもう他の人は好きになれなくなったけど……もう一度会ったら、もっと好きになった」
「……ッ!」

物凄いことを言われた気がする。

でも、私もジョーの文字だけで、文章だけで、もう大好きだった。

「好きだよ、汐璃」
「……それって、その……取材云々じゃなくて?」

言いながらもう、そうじゃないとは知っていた。

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