一途な小説家の初恋独占契約



タクシーの中で連絡を取っておいたので、会社に着くと寺下部長が待っていてくれた。
契約のことと言ったので、忙しい中、時間を作ってくれたようだ。

「何か変更でも?」
「いえ。この男の無責任な言動で、汐璃との間に誤解が生じました。それを正したいと思いまして」
「直島君!?」

ジョーに引き摺られるようにして連れてこられたのは、直島さんだ。

「部長、この男こそ諸悪の根源です。こいつが来てからメチャクチャだ」
「……何言ってるの?」

眉間を揉みながら、部長は全員に腰掛けるように告げた。

それに構わず、直島さんはジョーの手を振り切り、部長に捲くし立てる。

「こいつは、女を誑かします。部長も騙されてるんだ!」
「落ち着きなさい。何があったの?」

寺下部長は、はっきりと眉間に皺を寄せ、不快感を露わにしながらも先を促した。

「こいつは、大塚出版の鎌石と、ホテルで会ってたんだ。それどころか、初日からずっと窪田の家に居座って! 仕事を餌に女を釣ってるんだ! そんな男に騙されて、窪田までおかしくなってしまった。営業の癖に編集の仕事を取ったあげく、自分を翻訳者にしろだなんて、よくそんなことが言えたもんだな!」
「言いたいことはそれだけか」

直島さんの言葉が止まった一瞬を逃さず、ジョーが切り込む。

「キミの話には、矛盾が多くある」

溜め息を押し殺した深い声で、ジョーは一語一語くっきりと説明した。
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