一途な小説家の初恋独占契約
「まず、先ほど言った通り、鎌石氏とは直接面会していない。ドアを開けることなく会話し、書類はフロントを介した。僕は、仕事のために女性と関係を持ったことは、一度としてない。
次に、汐璃を僕につけるよう要請したのは、僕だ。汐璃は、会社の指示で従ったまで。汐璃の希望は、そこにない。
翻訳者の件も同様に、僕の希望であって、汐璃の意思は皆無だ」
「そんなの、どうとだって言えるじゃないか。お前ら、ずっと知り合いだったんなら、共犯だろ」

直島さんは、ジョーに標的を移し、畳み掛ける。

「知り合いだが、知っているのは住所だけだ。電話番号さえ知らない。連絡手段は、郵便のみ。それも、ここ2ヶ月ばかりは途絶えていた」
「それもどうだか分からない」
「本気で証明しようと思えば、できるだろうけどね。……それより、僕は気になっていることがある。先ほど、『初日から』汐璃の家に居座ってと言ったが、キミはそれをどうやって知った?」

険しくジョーを睨みつけていた直島さんが、ほんの一瞬、しまったという顔をした。

「僕は、清谷書房にそこまで話していない。僕が話したのは、寺下部長だけだし、僕が言ったのは、昨夜から汐璃の家にファンが押しかけているという事実だけだ。汐璃は?」
「私も、誰にも言ってません」
「私も、言ってないわ。窪田さんを、諸事情で午前中休みにしてほしいと営業部長に依頼したのと、仲の良い井口秋穂さんに窪田さんの家に行くよう指示しただけ。それも、詳細は言わずにお願いした」

寺下部長も続けると、直島さんは慌てた調子で声を荒げた。

「そんなの! 普通、そう思うだろ!?」
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