素敵な王子様の育てかた。


扉が開く音が聞こえ、我に返る。
振り向き私は「お帰りなさいませ」との言葉と共に、礼をした。

顔を上げると、そこには不機嫌そうな表情を浮かべる王子の姿がある。

「王子……」

「いきなり呼ばれたと思ったら、あんな話……。正直出たくない。なぜ気も知れない相手に対して、俺が愛想振りまかなきゃいけないんだ」

吐き捨てるようにそう言うと、乱暴に身体をソファーに預け、大きくため息をついた。

気も知れない相手。
それは多分、王子の結婚相手の候補となる女性のことだろう。

王子が面白くないのも分かる。
勝手に相手となる女性を決められたのだから。

しかし、貴族……ましてや王族であればそれは仕方のないこと。
自分の好みで相手なんて選べやしない。

私だって、過去に少なからず縁談の話はあった。

それでも私はウェルバート家でも三番目の子で、そこまで責任があるわけでもなかったし、まだ年もそれほど焦る必要はなかったから、かわすことは可能だったわけで。

でもそれだって、あと何年かしたら、選り好みしている余裕もなくなる。
いずれは、親が決めた相手と結婚しなくてはいけなくなるだろう。

王子はより深刻だ。
なぜなら第一王子で、次期国王でもあるから。

自分の気持ちよりも、国の為の利益を考えなくてはいけない。
のんびり構えていられる時間は、あまりない。

それがどれだけ苦痛なことか、聞かなくても分かる。
そして自分が外に出たことで、大きく変化していく状況についていけずに困惑していることも。

< 141 / 190 >

この作品をシェア

pagetop