王子様とハナコさんと鼓星


「あ、そうだ。そう言えば、話は変わるんですけど、引っ越しはどうしたらいいですか?各家電は備え付けの部屋を借りていたので荷物はあまりないんです。どうせなら、買おうかなって思ってまして…」


「買うって、なにを?」

「大きいものですと、洋服入れとか…日用品に…べ、ベッド…とかを。布団は慣れなくて」


「あれ、夫婦になるのに一緒に寝ないの?」


指輪をはめている手の上に手を重ねられる。自分でベッドなんて言って墓穴を掘ってしまった事が恥ずかしくなった。


「い、いや、その…」

冷や汗が流れ、奇妙な焦燥感に駆り立てられる。凛太朗さんの視線を感じるのに合わせる事が出来ない。

どうしよう。なんて言えばいいの?

言葉を模索していると、部屋のドアを叩く音が聞こえた。凛太朗さんが返事をすると、そこには寧々さん。


「華子さん、お風呂の準備がととのいましたよ。案内するわね」


「あ、ありがとうございます!」


予想外の助け舟に勢いよく立ち上がる。持参した荷物を手に、凛太朗さんに「お風呂お先に頂きます」と、声を掛け急いで部屋を出た。

そのあからさまにおかしな態度の私を笑っていたのは何と無く分かった。


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