王子様とハナコさんと鼓星
時間は20時過ぎ。もうすぐ帰ってくる。
お皿を出してサラダを盛り付けテーブルに並べる。ひと通りの準備が整い少し休もうとソファーに座るとゲンマがチラリと私を見つめた。
「ごめんね。ちょっと座るね」
手を伸ばしてリモコンを取りテレビをつけようとすれば、ゲンマが突然立ち上がりガチャと鍵が開く音とドアが開く音が聞こえた。
(帰って来た!)
リモコンを置いて玄関に行く。
「お帰りなさいませ」
「うん。ただいま」
靴を脱ぐ凛太朗さんに駆け寄ると靴を脱ぎながら私をジッと見つめて来た。
「お仕事お疲れ様…って、え?何かついてますか?」
(もしかして、カレーがついてたかな?)
服を見渡すと、凛太朗さんは微笑みながら靴を端の方に寄せてスリッパを履く。
「ついてないよ。実は帰って出迎えてくれるのかドキドキしてたんだよね。やっぱり帰って誰かが出迎えてくれるっていいなって思った。あ、これって本当に新婚っぽいね」
「は、はい」
(そう言われると恥ずかしい。でも…こういうの実は憧れだった)
「あの、荷物でも待ちますよ」
「大丈夫だよ。それより良い匂い」
「はい!約束のカレーです。先に食べますか?それともお風呂にします?」
「華子は食べたの?」
リビングのドアを凛太朗さんが開ける。私の背中に手をそっと添えて中に促してからドアを閉めた。
「いえ。一緒に食べようかと…」
「ふっ、ありがとう。じゃあ、先に食べようか。着替えて来るね。ゲンマもただいま」
鞄をソファに置いてコートを脱ぎながら寝室に入る。その後をゲンマが付いていき、私は夕食の準備を始めた。