王子様とハナコさんと鼓星

すると信号が赤から青に変わった。周りが一斉に歩き出し私も横断歩道を渡る。その横を社長も歩き渡り終わるともう1度こくりと頭を振る。


「えっと、では…私はこちらの方向なので」

「ねぇ、村瀬さん?」

「は、はい?」

恐る恐る言葉を待つと社長はポケットに手を入れニコリと笑った。


「ご飯、一緒に食べない?お嬢さま」


雨の中、傘に当たる音が響くのに社長の言葉ははっきりと聞こえた。


(お嬢さまって…私のこと?)


普通の人に言われたら引いてしまう言葉なのに、恵まれた容姿と穏やかに放たれた台詞は不覚にもときめいてしまった。


でも、それはほんの一瞬。言葉の意味を理解して勢いよく片手と頭を左右に振った。


「わ、私なんかが社長とご飯なんて…お、恐れ多いです」


と、言うか緊張してご飯なんて喉を通らない。
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