王子様とハナコさんと鼓星
「恐れ多くなんてないよ。それとも、いつもからかっているから俺の事は苦手かな?」
「そんなこと…」
(ないです。とは、言えない。苦手で緊張しちゃうから)
「予定あった?」
「ないですけど…」
「じゃあ、何が食べたい?村瀬さんの好きなものにしよう。フレンチ?割烹料理とかお寿司もいいね」
「えっと…」
(どうしよう。買い物して帰って食べます。なんて言いにくい…しかも、会社の社長。協調性がないとか思われるよね…)
「わ、わかりました。私で申し訳ないですが…よろしくお願いします。では、行きましょうか」
買い物に向かおうとした反対方向に歩くと、社長が隣に並ぶ。肩の高さが全然違う。社長って、思ってた以上に結構身長高いんだ。
チラリと傘の隙間から盗み見る。下から見上げても変わらない甘いマスク。少し明るめに染めた髪の毛は白い肌と絶妙にマッチしている。
と、言うか、本当に私でいいのかな。
もし、社長の知り合いに見つかって地味な女と一緒にいたなんて言われたら社長の評価が下がる。それは心苦しい。
ましてや、恋人になんて見られたらまずいよね。そんな事を考えるもの「帰ります」その一言が言い出せなかった。