王子様とハナコさんと鼓星
「住所と電話番号もお願いします。あと、被害届はどうされますか?」
「被害届…?えっと…」
「今回の場合は怪我もしてバックも盗まれています。出された方が良いかと」
「は、はい…」
「では、明日にでも署の方までお越し頂けますか?また詳しい話を聞いて担当の者が作成し、印刷した書類の確認などもありますので、3時間ほどかかります」
少し不安になった。けれど、初めての事ばかりで言われるがまま頷くと、部屋のドアが叩かれ看護師の女性が顔を覗かせる。
「桐生さん、旦那様がお見えになりましたよ」
「あ、はい…」
看護師の後に凛太朗さんが顔を出し、警察官と私を交互に見つめ深く頭を下げた。
「桐生です。妻がお世話になりました」
「旦那様ですね。お席にどうぞ」
警察官に促され、凛太朗さんが私の隣に座る。スーツのままで急いで来てくれたのか呼吸が少し荒い。
申し訳ない気持ちでいっぱいで、軽く頭を下げた。
病院に着いた時、家族に連絡をするから連絡先を教えてくれと言われた。連絡されるのは困ったけど、しぶしぶ凛太朗さんの番号を教えたもの繋がらなかった。
そうしたら、会社の連絡先を聞かれ更に困ってしまい、代わりに針谷さんに電話をして貰う事にした。
針谷さんから聞いて、来てくれたんだろうけど…こんな事になって頭が上がらない。それに、もっと大事な事を言わないといけない。
凛太朗さんを横目に何も言えないでいると、警察官は彼を見る。
「一通りの事は奥様からお話を聞きました。被害届の提出に明日にでも署の方に来て頂くことになりました」
「そう、ですか。事情は何となく聞いています。妻を守って頂き、ありがとうございます」
テーブルに頭がつくほど深く頭を下げると、向かいの2人は微笑んだ。
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