王子様とハナコさんと鼓星
「では、旦那様も御到着されたようなので我々は引き上げます。また明日、よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
凛太朗さんと同じように頭を下げると、警察官が部屋を出て行く。ドアが閉まりホッと息をつけば凛太朗さんがすぐに私の顔を覗き込んで来た。
「華子、遅れてごめんね。怪我の具合は大丈夫?」
濁りのない綺麗な瞳に見つめられ、彼の方に身体を向けてゆっくりと頷く。
「はい、大丈夫です。ご迷惑をお掛けしました。お仕事中なのに…ごめんなさい」
「そんなの気にしなくていいから。と、言うか、病院からの電話も出られなくてごめんね」
顔を上げ、左右に勢いよく首を振る。
「凛太朗さんは悪くありません。謝らないでください」
「本当の事だよ。それで怪我の具合は?」
「擦り傷だけで、骨と脳には異常はありません」
「そっか」
片手をゆっくりと伸ばし私の頬を包む。走って来たせいなのか少し熱い。
もう片方の手を肩に乗せて凛太朗さん自ら近付いて来ると、身体をそっと包み込むように抱かれ、胸がぎゅうと締め付けられた。
病院からだいたいの事を聞いていると言っても詳しい事は知らない。それなのに、凛太朗さんは何も聞いて来ない。
私から話すのを待っているのか、これから聞いて来るのか。どちらにしても、話さないといけない事。
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