王子様とハナコさんと鼓星
「目、閉じて」
「え、い、今ですか!?」
いま、キスをするの?予期せぬ提案に慌てふためくもの、そんな私の事なんて御構い無しに肩の手が後頭部に回ってきた。
「少し、触れるだけ。ほんのちょっとだけ。ね?」
「うっ」
(これは、断らせて貰えないやつだ)
私の返事を待つ事なく顔を近付け、額同士がぶつかる。お酒臭いのに、ワイシャツの隙間から見える胸板とその匂いに頭の中が真っ白。
もういい。どうにでもなれ。自分自身を奮い立たせ目をぎゅうと閉じる。
フッと鼻で笑う声と同時に距離を詰めてくる雰囲気を感じた。
あと、数センチ。そう思ったのに。
「…あ…まずい…しまった」
「…え?わぁっ」
近づいた唇は私の唇に触れる事なく首筋に埋められ、心なしか凛太朗さんの身体が震えていた。
「え、あの…え、えっ?」
「華子、ごめん」
身体を離し口元を押さえ、流し台に俯く。顔は真っ青で急いで凛太朗さんの背中に手を当てた。
「ちょっ、凛太朗さん!」
「気持ち悪い…」
「え、あ、え?ちょっ…凛太朗さん!?」
私の叫び声は、良いムードをぶち壊し大惨事に変わってしまった。