王子様とハナコさんと鼓星

「目、閉じて」

「え、い、今ですか!?」

いま、キスをするの?予期せぬ提案に慌てふためくもの、そんな私の事なんて御構い無しに肩の手が後頭部に回ってきた。


「少し、触れるだけ。ほんのちょっとだけ。ね?」

「うっ」

(これは、断らせて貰えないやつだ)

私の返事を待つ事なく顔を近付け、額同士がぶつかる。お酒臭いのに、ワイシャツの隙間から見える胸板とその匂いに頭の中が真っ白。


もういい。どうにでもなれ。自分自身を奮い立たせ目をぎゅうと閉じる。

フッと鼻で笑う声と同時に距離を詰めてくる雰囲気を感じた。

あと、数センチ。そう思ったのに。

「…あ…まずい…しまった」

「…え?わぁっ」


近づいた唇は私の唇に触れる事なく首筋に埋められ、心なしか凛太朗さんの身体が震えていた。

「え、あの…え、えっ?」

「華子、ごめん」

身体を離し口元を押さえ、流し台に俯く。顔は真っ青で急いで凛太朗さんの背中に手を当てた。

「ちょっ、凛太朗さん!」

「気持ち悪い…」

「え、あ、え?ちょっ…凛太朗さん!?」


私の叫び声は、良いムードをぶち壊し大惨事に変わってしまった。

< 218 / 325 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop