王子様とハナコさんと鼓星
なんて、それを見ているだけで気まずいまま最後の日を迎えた私も皆んなと同じだけど。
「彼女が何年も桐生グループで頑張ってくれていたのは分かっているよ。でもね、なんでも出来るからこそあんな事はして欲しくなかったんだ。彼女があんな風になったのは彼女だけではなくて周りの影響もある。だから、あの時物凄く攻めた言葉を言ったけど、俺は後悔していないよ」
後頭部に手を回して髪の毛をすく。
「人って個人差もあるけど、与えられた痛みを同じように与える人と、それを与えない人がいる。どっちが正しいとかそれはその会社によって教育方針は違うけど、俺は後者がいいんだ。働く場所が辛い場所であって欲しくない。学校みたいって言うか…楽しんで欲しいんだ。その考えに今の支配人は共感してくれている」
確かに、あの支配人なら共感しそうかも。結婚報告の時とか色々と…子供っぽいと言うか、いい人。
「人材部や人材育成部にもその事は理解してもらっている。だけど、スタッフの数も多いから目が回らない所もあるのは現実なんだけどね。大変だよ色々と。そう言えば違う部署も問題があるとか言っていたんだよね」
暗闇の中、凛太朗さんが失笑したのが分かる。
「もっと信用出来る奴をグループに引き込まないとだな。まぁ、その辺も含めて頑張らないと。身体がもつかな?」
「ふふ、毎日肩もみくらいならやりますよ。大得意なんです」
「本当に?それなら頑張れそうかも」
「はい。お仕事のことは、多分私には何も出来ないですから…あ、でも、凛太朗さんがして欲しいことはしますよ!支えになれるように頑張ります」
「ありがとう。そんな事を言ってくれる華子と結婚して本当に良かったよ」
更に力を込められ少し息苦しい。でも、その抱擁は不思議と落ち着いて心地よかった。