王子様とハナコさんと鼓星


優しい口付けにお腹の周りがギュウと疼く。伸ばした手で胸元の寝間着を握り「なるようになれ」そう言い聞かせると、名前を呼ばれ閉じた目を開けた。

「怖い?手が震えてるよ」

「え…あっ…これは」

「やめようか。焦る事でもないからね」

「あ、あの」

離れる凛太朗さんを追うように大きな背中に抱きついた。頬を寄せ、腕に力を入れる。

「これは…怖いとかじゃなくて」

「いいんだよ。帰って来た時の楽しみに取っておくから」

灯りを消して、正面から抱き締めて寝具に沈む。ピタリと密着した身体。体全体が凛太朗さんの男性らしい香りと僅かなシャンプーと柔軟剤の入り交じった香りに包まれる。


「はぁっ、出張とか行きたくないな」

色っぽい雰囲気を180度変えるような言葉。ごめんなさい。と、心で思いつつも安心している私が何処かにいた。

まだ、怖かったのかな。震えていたなんて言われるまで分からなかった。


「やっぱり華子も連れて行けば良かった」

「ごめんなさい。私のわがままで」

「いや、仕事を投げ出す事が出来ないって言う考えは偉いよ。でも、連れて行きたかった。一層の事、こっちのスタッフにも早く結婚の事言えば良かったな」

「そ、それは…ちょっと…」

「でも、出張から帰って来たら言うよ。相手が華子って事は退社するまで言わないけど。同じスタッフという事は言うからね」


「は、はい。そうだ、今日は志田さんが転勤するので最後の挨拶がありました。色々あったのに、なんか可哀想って言うか手の平を返す皆んなにモヤモヤしてしまいました」
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