王子様とハナコさんと鼓星
楽しかった。聡くんと一緒にいると、笑顔になれる。毎日が楽しかった。
そんな毎日が続き、交際6ヶ月が過ぎた頃の事だった。いつものデートの帰り道、聡くんは何故かそわそわしていた。
話しかけても曖昧な返事に質問をしても的を得ない返答。おかしいな?と、思っていたけれど…別れ際に「うちに寄らない?」その言葉で不可解な行動の意味がわかった。
付き合って、6ヶ月。そろそろその先に興味がなかったわけではない。ただ、初めての彼氏だからタイミングが分からなかった。
恥ずかしげに誘う彼の言葉に少し迷った結果、行くことにした。
1人暮らしをしていた聡くんの部屋は男性らしい。綺麗過ぎず、汚くもない。なんと言っても、いつも聡くんがつけている甘い香水の香りで満ちていた。
最初はなんとなくテレビを見た。事前にコンビニで買ったお菓子や飲み物を飲みながら1時間ほど過ごす。
お笑いの番組だった。終盤に差し掛かりナレーションのアナウンサーが次回の予告を読み上げる。エンドロールが流れ、地元の放送局に変わった時だった。
『お風呂…はいる?』
唐突に告げられた言葉。ぎこちなく頷いてタオルと聡くんの服を借りてお風呂に入った。