王子様とハナコさんと鼓星
「そんな…そんなっ!」
「話は以上だよ。何か異論があれば聞くけど」
何も、聡くんは言わなかった。凛太朗さんを目の前に聡くんは敵わないと察したのかも知れない。顔を伏せて、それ以上何も言わなかった。
「約束だよ。二度と華子の前に現れる事がないように。約束を破ったら、次はありとあらゆる企業に根回しして働けなくなるかもね。でも、それはしたくないから…この約束を必ず守って」
「……っ」
「悪かったね、帰り際に」
言葉を吐き捨てるように言い、踵を返す。身体は向かい合うのに凛太朗さんは私に視線を向ける事なく歩き、すれ違った。
人混みに紛れ凛太朗さんの姿が見えなくなる。聡くんは頭を抱えて、ふらふらとその場に塞ぎ込んでしまった。
「………」
ごめんね…聡くん。今度こそ、さようなら。そう、胸の中で呟き、凛太朗さんの背中を追う。