王子様とハナコさんと鼓星



***


「村瀬さん、なんか元気ないけど…具合でも悪いのかな?」


その日のお昼、今日も主任とペアでのトイレ掃除。午前の業務を終え、2人でご飯を食べていた。

「あ、いえ…そんな事ありませんよ」

手を振り無理矢理笑顔を作って微笑む。

会社に来てからも、心は凛太朗さんの事でモヤモヤしていた。


なんで、何も言わずにいなくなってしまったのとか、連絡もくれないのとか…もう、このままダメなのかもしないとか…悪い事ばかり考えてしまう。


身体を重ねている時は無我夢中で…今まで感じた事がない気持ちに満ちていた。

始まりから最後まで優しく触れてくれて…すれ違った思いも1つになれたと思っていたのに…


私の、勘違いだったのかな。


いて欲しかった。目が覚めて、凛太朗さんの体温に触れたかった。それなのに、あの人の温もりは何もなかった。


今までの事が夢だったかのように。


主任に誘われて注文した日替わり定食。朝も食べていないからお腹は物凄く空いているのに、全然箸が進まない。
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