王子様とハナコさんと鼓星
暗い表情を浮かべる私を前に、主任は箸を置いて暖かいお茶を飲んだ。
「これは…もしかして、恋の悩みかしら?」
顔を上げれば、主任は私とは正反対でニコニコしている。
「えっと、その…は、はい…」
「やっぱり、正解。村瀬さんって、顔に出やすいのね」
「あ、すみません…」
さすが、子沢山の主婦だけある。察しがいい。
「謝る事じゃないから。どうしたのかな?私で良ければ相談に乗るけど?」
頬杖をつき、また笑顔を向けられる。
少し話すことに戸惑った。でも、私のネガティヴな考えはどんなに時間を掛けて考えても気持ちは晴れない。聡くんの事で、身に染みて分かっている。
「喧嘩とか?」
「喧嘩…なんでしょうか?ただ、私が1人で悩んでいるだけかもしれません。あの、主任?」
「ん?なぁに?」
「なんて言いますか、彼は私の事を大切にしてくれていたのに…私は彼を傷付けてしまったんです。ちょっと、昔の彼氏とトラブルがあって…相談すれば良かった事なのに、迷惑を掛けたくないとか、幻滅されるとか…1人で考えても意味のない事を考えしまいました」
「…うん」
「だから、言えなくて…黙っていたんですけど、トラブルがあっだ事を人伝で知ってしまったんです。彼は…そのトラブルを解決してくれましたけど…私が話さなかった事が…ショックだった…と」
今は言えない事もある。要点だけを絞り、凛太朗さんとの事を話す。頬杖をやめ「う〜ん」と声を唸らせる。