王子様とハナコさんと鼓星


「あの、実は…これはまだ誰にも報告はしていないんですけど…彼とは勢いで結婚をしてしまいました。ですから、お互い好きとか初めはなかったです。それなのに、あの人は…私に対してとても優しいんです」


「え、そうなの?」

結婚と言う単語に主任は目を大きく見開いた。半ばヤケになっていた。結婚の事はまだ秘密なのに。


「はい。黙っていてすみません。普通の結婚ではなかったです。でも、覚悟をして結婚しました。彼を支えないといけないって。覚悟をしていたはずなのに…本当の覚悟なんて…出来ていなかった…って、言われてしまいました。全く、その通りです。元彼とのトラブルは言わないといけない事なのに誤魔化そうとしたんです」


「…うん」

「彼は…凛太朗さんは…私と勢いの結婚でも、私と家族になろうって、覚悟をしてくれていたのに…私は違いました。覚悟の重さが全然違いました。結婚って、どう言う事なのか分かっていなかったんです。それで…言い合いになって…私達のペースで良いと言ってくれたのに…何故か凛太朗さんが離れていく気がしました。それが嫌で…そばにいて欲しくて…初めて一緒に眠ったんですけど…」


今朝のことをふと思い出す。冷たくなった寝具。誰もいない部屋。孤独感。


「凛太朗さんは…起きた時には部屋にいませんでした。もう、無理なのかもって…思ってしまって…今に至ります」


私の話を主任は黙って聞いてくれた。話し終わり、主任の表情を伺うと何故かポカンと口を開けわざとらしく瞬きをしている。
< 300 / 325 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop