王子様とハナコさんと鼓星
背筋が伸びて太ももの上で手を握りしめていれば社長が息を漏らして笑った。
「ははっ…なんか、緊張してる?」
「そ、それは…は、はい」
「もっと楽にしてよ。針谷がいるから、とって食べるような事はしないよ」
「え?あ、ええ?」
狼狽しその意味を理解すると、顔を真っ赤にして言葉に詰まる。
(この人、なに平然とした顔で言っているの?しかも、前に針谷さんがいる所で)
「それとも、ここはやっぱり紳士的に手は繋いだほうがいいかな?」
「け、結構です。間に合ってますから!」
気持ちすみにより、社長を見ないように視線を外す。
胸がドキドキする。社長なんて全然好きじゃない。寧ろからかってくるから苦手。なのに、そんな事を整った顔で言われたらときめかないなんて無理な話だ。
だめ、だめだよ。少しくらい優しく気に掛けてくれているからって特別な感情なんて抱いてダメ。そのお陰で、以前はひどい目にあったんだから。
あくまでも高嶺の花。桜と同じで見ているだけでいい。
そんな事を考えているとあっと言う間にホテルに戻れた。