王子様とハナコさんと鼓星
「ありがとうございます。なんか、すみません」
「気にしないで」
「あの、つかぬ事をお聞きしますけど、先ほどの警備員さんとお知り合いなんですか?」
名前で呼んでいたし、なんだか親しそうな雰囲気だった。
「彼はね、ここがオープン当初から勤めているんだ。桐生グループの本社を含めたホテルとして建設されてその当時、俺は3歳。会長である父の周りをウロウロしていた時に、子守として預けられてよく遊んでくれたんだ」
「そうだったんですか。あ、ドア開けます!」
裏口のドアを開けると、そこには既に車が停めてある。針谷さんがトランクを開け社長から受け取った荷物を置く。すると後部座先のドアを開けた。
「どうぞ。お姫様」
「は、はい。失礼します」
(ま、また、お姫様だなんて)
車に乗り込むと、社長も隣に座り針谷さんがドアを閉めた。いい車だって、すぐに分かった。
私では一生手に届かない車。そして、いい匂いもする。中は指紋どころかゴミ1つ見当たらない。
ついキョロキョロとしていると、車が動き出す。緊張して落ち着かない。