王子様とハナコさんと鼓星
そして、その2日後、また大きな事件が起きた。
「あなた、なんなの!?主任に言うだけで私には何も言わないでいいなんて思っているの!?」
朝、出勤して作業着に着替えミーティング室に行くと、志田さんの叫び声が響いた。
60歳ほどの志田さんより年上のパート女性。口数が少ないが、手際がよく仕事はとても丁寧な人。志田大帝国には入っておらず所謂中立派。志田さん達とはトラブルになった事は一度もない。
その彼女が怒鳴る志田さんを前に深く頭を下げていた。
「え…な、なにがあったの?」
今日は3連休の日曜日。チェックインの数も多い日は清掃後のチェック担当のアルバイトがいる。
部屋を見て回り、ゴミがないかタオルやハブラシなどのアメニティグッズが揃っているか確認する。
その他には、私が休みの日にトイレ掃除を担当している40代の主婦だ。
小さな声で何が起きたのか問うと、更に小さな声で口を開いた。
「それがさ、明日、親戚が緊急入院して看病しないといけないから休みを下さいって昨日主任に言ったみたいなの。主任は了承したみたいなんだけど…突然の休みを志田さんは知らされていないって怒ってるの。ほら、今日は入り数も多いから明日の清掃数も多いじゃない?それに付け加えて、主任が会議で午前中いないし、村瀬さんも休みでしょ?考えていた予定が狂って怒ってるの」
「そう、ですか…」
それは、主任が了承したのに志田さんが怒る立場なのかな。
「信じられないわ。私があなたに仕事を教えたのよ?なんで、私に言わないの?主任が1番だって言うの!?なんなのよ!それ!」
「も、申し訳ありません」
何回も何回も頭を下げ、土下座でもするかと思うほどの勢い。
ミーティング室に広がる2日前と同じ雰囲気。重い、物凄く重い。そして、荒れ狂う志田さんに呆れを通り越して嫌悪感を感じてしまう。
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