王子様とハナコさんと鼓星
「えっと…わ、たし?」
「はい。少しお時間よろしいですか?」
(な、なんで?な、んで、わたし?)
桜を見ると無言で頷く。
ど、どうしよう。周りをみると、注目されているのは間違いない。
「は、はい」
立ちあがり、桜に目で合図をしてからバックを肩にかける。食器を返却台に置き、食堂を出て行く針谷さんの後を追う。
社長よりほど背は高くない。でも、後ろから見ると同じくらい良い体型。そして少し歩くのがはやい。
歩幅が合わなく小走りでついていけば人通りの少ない場所で立ち止まりおもむろに振りかえった。
「突然お尋ねして申し訳ありません」
「あ、いえ…あ、そうだ。一昨日はありがとうございました。助かりました」
「いえ。社長の判断です。それより、こちらを。車の中に落ちていました」
差し出された桃色のピアス。小さい花の形をしたものだ。でも、全く見覚えがない。
「えっと、たぶん、これは私のものではありません…」
「そうですか。わかりました」
(え?もしかして、それだけのために?と、言うか…随分とあっさりしてるんだ)
なんの用事がハラハラしたけれど、少し拍子抜け。
「では、わたしは仕事に戻ります」
「お待ち下さい。付かぬ事をお聞きしますが、社長とはどのような関係ですか?」
ピアスをポケットに入れ、抑揚のない声色で問われ戸惑った。