王子様とハナコさんと鼓星


「ほらね?面白がってるだけ」

「そうかなぁ」

「そうですよ。と、言うか、この話のパターンもういいですから」

「ふ〜ん…あ…ほ、ほら、噂をすれば!」


テーブルをトントンと叩き、声を出さないで口だけを動かす。「後ろ見て」そう読み取れる。箸を置いてそっと振り向けば食堂の入り口に針谷さんがいた。


「あれって、針谷さんだ。遠くから見てもかっこいい。社長とはまた雰囲気が違ってさ」


「本当だ。なんで、食堂にいるんだろう。珍しいね」


キョロキョロと誰かを探しているのか周囲を見渡している。ご飯を食べる女性スタッフの熱い視線を受け流し、ふと、私と目が合った。


(ま、まずい!)


振り返った身体を桜に向けて、置いた箸を持ちご飯を食べる。


針谷さんと何かあったわけじゃないけれど、いつも社長にからかわれているのを見られている。

一気に緊張してしまい、煮物の味もよく分からない。


箸を置いて水を飲むと桜が急に背筋を伸ばして箸を置く。そして、トントンとまたテーブルを軽く叩いた時。


「村瀬さん」

(…え?)


名前を呼ばれ顔を反射的に上げれば、針谷さんの端整な顔が私を見下ろしていた。


何処か冷たさを感じる瞳。無表情で近寄りがたい雰囲気の人。

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