王子様とハナコさんと鼓星
ターゲットになるのが怖いから。怒鳴られると辛いから。言い返して逆ギレされてもそこから言い返す勇気もない。
人を蔑んで笑う彼女達の方が心底気持ち悪いのに。
悔しい。悔しいよ。
あの人は掃除しか出来ないんじゃない。だって、あの人は誰よりも丁寧で真面目に働いている事を私は知っているんだもん。
「本当にくだらない…最低」
悔しい時、ここに来てから唇を噛み締めるのはクセになってしまった。抑えられなくなりそうな感情を必死で落ち着かせようと目を瞑り背中に壁をつける。
そして、ゆっくりと目を開ければ私の目の前には首を傾げる社長がいた。
「…あ」
「どうも」
一瞬、なんで?と浮かんで来たが、それはほんのひと時。壁の影から志田さん達を覗き込むとまだ話していた。
数歩2人から遠ざかるように離れて、チラリと社長をみる。
「お、疲れ様です」
「お疲れ様。村瀬さん」
微笑んだ。眩しい笑顔を向けられ私も少しだけ微笑んで返す。
もしかして、もしかして…もしかしてだけど…
「えっと、いつからそこに?」
「少し前かな?」
「そうですか。あの、私の呟きを聞いていました?」
「う〜ん…まぁ、それなりに」
血の気が引いた。1人だと思って呟いた言葉。
まさか、社長がいて聞かれていたなんて。
「えっと、その」
伸ばされた手が頭にふれる。社長は私に会うといつも頭に触れる。まるで、子供をあやすように優しく触れるんだ。
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