王子様とハナコさんと鼓星
「ねぇ、今日これから何か予定ある?もし、暇なら付き合ってくれませんか?」
「これから、ですか?えっと」
また、ご飯とかかな?それも良いかもしれない。なんとなく1人でいるとずっと考え込んでしまう。それなら緊張はするけど誰かといる方が気持ちが楽かもしれない。
「私でいいなら…」
「もちろん。おいで、行こう」
スーツの上には灰色のコート。帰る所だったのかな。ポケットから車の鍵を取り出し従業員入り口とは別にある業者が出入りする裏口に向かう。
管理職の人が車を止める地下駐車場に繋がっているところ。
その背中を小走りで追いかけると、社長は立ち止まり私の歩幅に合わせて歩く。入り口のドアも開けてくれて、少し歩くと2日前に乗った車とは違う車の前についた。
助手席のドアを開けてくれて、車に乗り込む。
シートベルトを締めて鞄を抱きしめると、社長も車に乗り込みエンジンをつけた。
「あの、どちらに行かれるんですか?」
「うん。あ、その前にお腹は空いてる?」
「そうですね、少しだけ…」
車が駐車場から出発する。誰かに見られませんように。そう思い外をキョロキョロと見渡すが、嬉しい事に従業員とはすれ違う事なくホテルを出た。