王子様とハナコさんと鼓星


「それは、その…」

「実は前から聞きたかった事なんだけど…トイレ掃除、もしかして嫌がらせなのかな?出会った時からずっと、村瀬さんばかりだよね?」



「あれは…でも、トイレ掃除は得意ですから」


「そうなの?それならこの前…鳥と話してた時の落ち込んだ顔、系列ホテルにいた時のこと、さっき「くだらない」って呟いていたのは関係ないの?」


普段優しい口調なのに、少しだけ威圧感を感じた。言葉につまり何も言えなくなる。


「それは…言いにくい事です」


「まぁ、そうだよね。いいよ。支配人に聞くから」

「ごめんなさい…」

「でも、俺が思っている事が正しいなら辛いでしょ?仕事も今の部署も」


いいよって言ったのに聞くんだ。答えたくなくても、まるで誘導尋問のように聞いてくるのね。


「社長…この話はここだけの秘密です。今日が終わったら忘れてくれますか?」


「いいよ。聞かせて」


「本音を言えば、辛いです。客室清掃部の人は怖いです。ピリピリしていて、影で悪口ばかり。ミスを何でも新人に責任を押し付けます。怒鳴ったり怒りに任せて攻めて来ます。話なんて全然きいてくれない。それが仕事だと言われてしまえば何も言えません。でも…もっと言い方とかあるのに…怒りに任せても何も変わらない…あの人達は…新人の頃に同じようにされたから私達にもするのかな?って思います…それなら辛かったはずです。それなのに、同じ事をするの?って…よくわかりませんよね。ごめんなさい」


志田さんの名前を出す事が出来ない。だから、思う事を口にしても、きっとよく分からないだろう。

私も口下手で上手く伝える事が出来ない。

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