元社長令嬢は御曹司の家政婦
家に帰ると、ついさっき帰ってきたらしい秋人がいて、猫の吐いたもので汚れているリビングの床を拭いていた。

大丈夫だったか聞かれたので、ひとまず大丈夫そうと伝えるとほっとしたような顔をする。

　　
「後は俺がやっておくから、君は休むといい。
汚いことは嫌いなんだろう？大切な服が汚れるぞ」

　
スーツのままで、またすぐに床掃除を始めた秋人の代わりに床を拭こうとしたけど、あっさりと止められる。
　
言っていることは腹が立つけど、その優しげな瞳になぜか何も言い返せなかった。


「冗談だ。
美妃も体調が悪いのに、一人で病院に連れていってくれてありがとう。助かった」　　


猫も見ておくから早く自分の部屋で寝るといい、と促されて、何か言おうとしたけれど、何も言葉にならなくて。


「......ありがとう」


ただ、愛想もなくたった一言を返すことしかできなかったけど、それに優しくうなずいた秋人になんだかいたたまれなくなって、早足で自分の部屋に駆け込む。
< 45 / 70 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop