副社長と秘密の溺愛オフィス
「どうかした?」

 背後から声をかけられ振り向いた。紘也さんが戻ってきたのだ。共犯者の彼の姿を見て、ますます申し訳なくなった。そんなわたしの様子に気がついたのか、一瞬目を軽く開くと、わたしの腕に手をからめてきた。

「紘也さん、わたしちょっと具合が悪いみたいなの。もう、御暇させていただこうと思うのだけれど、大丈夫かしら?」

 ぐっと腕に力をいれられた。「はい」と答えろという合図だ。

「そうしようか」

「悪いけれど、幹也さん。お父様たちによろしく伝えてくださる?」

 本日の主役の社長は、たくさんの人に囲まれている。それを邪魔するわけにはいかない。

「わかったわ。明日香さん大丈夫?」

「えぇ。では失礼します」

 周囲にはわたしがリードしているふうに見えているだろうけれど、実際は紘也さんの手にひかれてわたしたちはタクシーに乗り込んだ。

「はぁ~疲れたな。女って楽じゃないよな」

 タクシーに乗り込み行先を告げた途端、彼は高いヒールを脱ぎ捨てた。

「君の方は大丈夫――って顔はしてないな」

「えぇ、まぁ色々と。まぁ無難にやれたとは思いますけど」

 難しい話はなるべく避けて、あたりさわりのない挨拶だけを繰り返した。

「でも、何か思っていることがあるんだろう。言ってみろ」

「え、あ、はい――」

 今のこの気持ちを話すべきかどうか迷った。自分の中で消化してやり過ごすべきなのではないかと。けれど彼はその迷いも許してはくれなかった。

「いいから、話してみろ。俺たちは一心同体なんだ。おまえの気持ちはちゃんと知っておきたい」

 促されて結局話をした。
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