副社長と秘密の溺愛オフィス
「黒田(くろだ)大地です」

「甲斐紘也です。明日香さんには――」

 明日香が話し始めると、部屋に電話の着信音が流れた。どうやら弟のスマートフォンに電話がかかってきたらしい。

「ちょっとすみません」

 弟が断りを入れて電話にでた。どうやら何かトラブルがあったらしい。

 チラッとこちらを見たあと「はい、わかりました」と答え電話を切った。

「ごめん、姉ちゃん」

 弟が両手を合わせながら頭を下げて謝る。

「呼び出しておいて悪いんだけど、バイト先に鍵を届けないといけなくなった」

「そっか……それはしょうがないな」

 こっちも色々と聞きたいことがあったのだが仕方ない。退職の件については本人を問い詰めるか……。

「甲斐さん、せっかく来ていただいたのにごめんなさい」

 本当に申し訳なさそうに弟が頭を下げた。

「いえ、仕方ないですから。じゃあ帰りましょうか、乾さん」

 この場を去ろうと明日香はさっさと立ち上がった。彼女は内心ほっとしているのだろう。

「はい」

 しかし、立ち上がろうとした俺たちを黒田が制した。

「明日香ちゃん、せっかく戻ってきたのにもう帰るのか? 退院して一度も家に戻ってないんだから、疲れているだろう。他人の家じゃきっとくつろげなかったはずだ。ほら、部屋に行って休めば?」
< 114 / 212 >

この作品をシェア

pagetop