副社長と秘密の溺愛オフィス
その言葉に黒田は悔しそうに唇を噛んだ。そしてここぞとばかりに引導を渡す。

「だから、これからは全部紘也さんに頼るつもりです。今までありがとう、色々お世話してくれて」

 俺の言葉に、黒田はあきらめの表情を浮かべた。

「……わかった。口出しして悪かったな」

 席を立った黒田は苦笑いを浮かべている。

 そこに弟が戻ってきた。

「大地さん、帰るの?」

「あぁ、連絡くれてありがとう。仕事が残ってるんだ」

 そう弟に声をかけて玄関に向かう。リビングを出る前に振り向いた。

「もし、それでも明日香ちゃんの気持ちが変わるようなことがあったら、また〝大地兄ちゃん〟として頼ってほしい」

 何の反応もしない俺を見て、部屋を出て行った。

 鎮まり返ったリビングに「はぁ」という弟のため息が聞こえた。

「あんな、はっきりと言わなくてもいいだろ。これまで世話になったのに」

「話、聞いていたの?」

 弟がうなずき「少し前からね」と答えた。

「言い方はきつかったかもしれない。でもどんなに待ってもらっても結果は変わらない」

 俺が明日香を手放さない以上は、黒田の望みは叶わない。そうとなれば早々に結論を出してやるのも、アイツの為だと思う。
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