副社長と秘密の溺愛オフィス

⑬出しゃばり秘書奮闘記

 甲斐建設の重役会議室にひとりの男の不満に満ちた声が響いていた。

「だから言ったんだ。これでは大幅に工期が遅れる」

「それに関してはすでに先方は了承済みです。それに最終納期については問題ない工期の日程を組んでいます」


 わたしは必死になって、状況の説明をしていた。

 我が社が請け負っている駅前の再開発事業の建築現場において作業に遅れが出ていた。一部材料の調達が難しいものがあり、なんとか資材部が調達のために奔走してくれている。

「ここまで大がかりなプロジェクトにおいて、納期が遅れればどれほどの問題が出てくるのかわからないとは言わせませんよ!」

 たしかに大乗専務の言う通りで、工期の遅れは資金面、そして安全面でも不都合が生じる。しかしプロジェクトにかかわっている皆が、間に合わそうと一丸になって取り組んでいるのだ、それなのに責め立てるばかりで副社長への責任の追及しかしない。

「それは十分承知して――」

「本当にそうでしょうか? 事故後の副社長は以前とは違う感じですね。ご婚約が決まって浮ついておられるようだ。なんだか仕事に身が入っているように見えませんがね」

 思わずぎくりとした。理由はどうであれ、以前に比べて仕事の質も量も落ちているのは否定できない。

紘也さんと一緒に頑張っているが、こういった公の場ではやはりわたしでは力不足なのだ。ぐっと拳を握り不甲斐なさに耐える。
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