副社長と秘密の溺愛オフィス
「暑いっ! 足が痛いっ!」

 ぴったりとしたセクシーなスーツ。八センチのヒール。そして頭にはヘルメット。

 真夏の工事現場にふさわしくない服装で、紘也さんはわたしの隣に立っていた.

「そんな恰好で来るからですよ。車で待ってますか?」

「そんなことしたら、視察の意味がないだろ」

 駅前の工事現場は、一時期工期の遅れがあったが資材の調達がうまくいきそれ以降は順調に工事が進んでいた。

 しかし報告だけでは本当の現場の様子がわからないと言っていた紘也さんは、入れ替わった後も、何度となく各現場に足を運んで自分の目で現場の様子を確認していた。

 ヘルメット姿で、外から外観を見上げるその姿は真剣そのもので、姿形はわたしなのだけれど、副社長の威厳が漂っていた。

 どんな状況でも仕事に全力で紘也さんらしいな……。

 わたしは現場監督についで内部に入っていく紘也さんの後に続いた。

 設計図を片手に現場監督が色々とわたしに向かって説明してくれる。

「この間指摘した場所はどうなりましたか?」

「あぁ、これは――」

 一緒に図面を確認していると、よこからスッと手が伸びてきた。

「これじゃダメですね。ここの責任者は?」

「え?」

 いきなり話を始めた秘書に、現場監督は困惑気味だ。

「いいから、ここの責任者を出して。話が聞きたい」

「でも……」

 現場の総監督はわたしの方をチラリと見た

「あの、お願いします。少し話を聞きたいので」

「わかりました」

 現場監督が不審に思うのも無理はない。普通の秘書は、こんなかたちで現場に首をつっこむことはまずないからだ。

 しかし紘也さんは気にすることもなく、図面を見て何か考え込んでいるようだった。
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