副社長と秘密の溺愛オフィス
 そして今日まもなく彼が帰ってくる。

「少し寄り道をしてから戻る」と言った彼を、今か今かと待ち構えていた。

 元に戻ってからはなかなか着ることがなかった紘也さんが選んだ洋服を身に着ける。なかでも地味なものを選んだつもりだが、それでも普段のわたしからすれば、十分勇気のいるものだ。

 化粧を整えて、チャイムが鳴るのを待つ。空港からタクシーの乗ったとメッセージが来ていたので、到着はもうすぐのはずだ。

 そわそわと何度も鏡を見て、前髪を直してみたり髪を耳にかけてみたり……色々と試行錯誤しているうちに、紘也さんが帰ってきた。

 インターフォンのチャイムの音が聞こえ、跳ねるようにして玄関で彼を迎えた。

「おかえりなさい」

 すぐに飛び出したわたしに、紘也さんは少し驚いたようだ。

「なに、そんなに俺に会いたかったわけ?」

 からかいの言葉。いつもなら照れてしまい否定する。でも今日はそれをしなかった。

「まぁ、そんなところです」

「え?」

 いつにもなく、素直なわたしに紘也さんは面をくらったようだ。

「もうご飯の支度ができてます。少し早いですけど、食べましょう?」

「あぁ、荷物置いて着替えてくる」

 ネクタイを緩めながら、寝室に入った彼の姿を見て、わたしは料理の仕上げにとりかかった。

 彼においしいと言ってもらえる今わたしのできる最高の料理を提供できるように、出来るだけ丁寧に気持ちを込めて料理を作る。仕上げにカルパッチョにパセリを散らしていると「美味そう」と声がした。
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